
2026年4月1日から始まる住所等変更登記の義務化は、単なる登記実務の変更ではなく、売却準備の進め方や決済日程の確実性にも関わる制度改正です。
首都圏では中古マンション流通が拡大し、東京都は転入超過数も全国最多となっているため、特に東京23区を含む市場では影響が表れやすいテーマといえます。
以下では、制度の事実関係を整理したうえで、首都圏の売主・買主双方にどのような影響が出やすいのかを客観的に見ていきます。
この制度改正の背景には、登記簿だけでは所有者が分からない、あるいは連絡がつかない「所有者不明土地」の発生を抑える狙いがあります。相続登記の義務化に続く流れとして、住所や氏名・名称の変更も登記簿に反映させやすくし、不動産の権利関係を追いやすくする方向へ制度が動いています。
2026年4月1日以降、不動産の所有者は、住所や氏名・名称に変更があった日から2年以内に変更登記をする必要があります。対象は個人だけでなく法人も含みます。
また、2026年4月1日より前の変更でも未登記なら義務化の対象となり、2028年3月31日までに変更登記をしなければなりません。正当な理由なく義務に違反した場合は、5万円以下の過料の対象となる可能性があります。
通常の住所等変更登記には登録免許税がかかり、その税額は不動産1個につき1,000円です。土地1物件と建物1物件なら合計2,000円となるため、制度の義務化は「変更があればその都度コストと手間が発生する」という意味でも、所有者にとって無視しにくい改正です。
引用:
法務省│「住所等変更登記の義務化特設ページ」「住所等変更登記の義務化に関するQ&A」「住所変更の登記を申請するために必要な書類と費用」
全宅連│リアルパートナー 2026年3月号
この負担を軽減するために用意されたのが、「検索用情報の申出」と、それを前提にした「スマート変更登記」です。
2025年4月21日以降、所有権の保存・移転等の登記申請時には、検索用情報を併せて申し出ることが必要になっています。個人の所有者については、氏名、氏名のふりがな、住所、生年月日、メールアドレスなどの情報を基に法務局が住基ネットを照会し、変更を把握した場合に本人確認を経て職権で変更登記を行う仕組みです。
スマート変更登記自体は無料で、登録免許税もかかりません。一方で、スマート変更登記は「申し出さえすればすぐ反映される」制度ではありません。資料では住基ネット照会は2年に1回以上の頻度とされており、急いで登記簿を最新化したい場合は、従来どおり自ら変更登記を申請する必要があります。また、海外居住者や会社法人等番号のない法人は法務局側で変更事実を確認できないため、この仕組みを使えず、変更があれば申請対応が必要です。
引用:
法務省│「検索用情報の申出について(職権による住所等変更登記関係)」「スマート変更登記のご利用方法」
全宅連│リアルパートナー 2026年3月号
制度の中身以上に、市場実務へ影響しやすいのがこの制度の認知度です。資料によれば、2025年12月時点の法務省公表調査では、相続登記の義務化を知っている人が72%だったのに対し、住所等変更登記の義務化を知っている人は31%、スマート変更登記を知っている人は21%にとどまりました。
施行直前でも理解が十分に浸透していないという事実は、売却相談や購入相談の初期段階で「初めて知る」人が相当数いることを意味します。
引用:全宅連│リアルパートナー 2026年3月号

首都圏では、2025年の中古マンション成約件数が49,114件で前年比31.9%増となり、東京都区部でも成約件数は2ケタ台の増加でした。加えて、2025年の東京都の転入超過数は65,219人で全国最多です。
流通件数が多く、人の移動も大きい市場では、住所変更の発生と売買の接点が生まれやすいため、この制度改正の影響は首都圏、特に東京23区で表面化しやすいと考えられます。
売主側で最も大きい影響は、売却活動のかなり前段階で「登記簿上の住所・氏名」と「現在の情報」が一致しているかを確認する重要性が高まる点です。
義務化後は放置コストが過料リスクとして明文化され、しかもスマート変更登記は即時反映ではないため、売却時点で登記簿をきれいにしておきたい所有者ほど、自主的な変更登記を前倒しで検討する動きが強まりやすいとみられます。
この傾向は、東京23区のように取引量が多く、価格水準も高く、売却スケジュールの確実性が重視されやすい市場ほど出やすいはずです。とくに長年保有してきた区分マンション、相続後にそのまま保有していた物件、投資用で所有者本人が現地居住していない物件などでは、制度施行をきっかけに登記情報の見直しが進む可能性があります。これは価格そのものへの直接効果というより、売却準備の初動に影響する制度変更と見るのが自然です。
参考記事│不動産を高く売るには「時間的な余裕」も大切 – 株式会社ウィントランス
引用:
法務省│「住所等変更登記の義務化特設ページ」「住所変更の登記を申請するために必要な書類と費用」
公益財団法人東日本不動産流通機構│首都圏不動産流通市場の動向(2025年)
総務省統計局│住民基本台帳人口移動報告 2025年結果
全宅連│リアルパートナー 2026年3月号
買主にとっての直接的な影響は、2025年4月21日以降に所有権の保存・移転等の登記を申請する際、検索用情報の申出が必要になっていることです。
つまり、今の買主は、購入したその時点から将来の住所等変更登記への備えを組み込んだ形で不動産を取得することになります。制度上は買った後の負担軽減策ですが、実務感覚としては「購入時点で将来の売却や保有管理まで見据えた登記情報の整備」が始まったといえます。
もう一つの想定される影響は、決済の確実性です。
売主側の登記情報が古く、しかもスマート変更登記の反映が間に合わない場合、買主側から見れば日程面の不確実性が増えやすくなります。首都圏では取引件数が多く、住み替えやローン実行、引渡し日程が連動するケースも多いため、買主は今後、物件そのものだけでなく「売主側の登記情報が整理されているか」という点にも敏感になりやすいと考えられます。結果として、所有者情報の整った売り出し物件ほど、取引の安心感という面で相対的に見やすくなる可能性があります。
引用:
法務省│「検索用情報の申出について(職権による住所等変更登記関係)」「スマート変更登記のご利用方法」
公益財団法人東日本不動産流通機構│首都圏不動産流通市場の動向(2025年)
全宅連│リアルパートナー 2026年3月号
中期的に見ると、この制度改正は首都圏市場の「価格」よりも「取引の摩擦コスト」に作用する可能性が高いと考えられます。
住所や氏名の変更が放置されにくくなれば、売却や相続、資産整理の場面で所有者確認にかかる手間が減り、結果として市場に出しやすい物件が増える方向に働きます。もともと制度の目的自体が所有者不明土地の発生防止である以上、売買市場でも権利者情報の追跡可能性を高める効果が見込まれます。
特に東京23区では、個人保有だけでなく法人保有や投資用物件も多いため、検索用情報の申出や会社法人等番号の整備が進むことは、将来の売却準備を標準化する方向に働きそうです。ただし、スマート変更登記は即時更新ではないため、施行直後に劇的な取引効率化が起こるというより、取得時・保有時・売却時の各場面で「登記情報を早めに整えておく」意識がじわじわ定着していく改正だとみるのが妥当です。
近年は、空き家対策や相続登記義務化など、不動産の管理や所有者情報の整備を求める制度改正が続いています。空き家に関する制度改正については、「空き家法改正」の解説記事も参考になります。
参考記事│空き家法改正で増税リスクが10倍に⁈ – 株式会社ウィントランス
引用:
法務省│「住所等変更登記の義務化特設ページ」「検索用情報の申出について(職権による住所等変更登記関係)」「スマート変更登記のご利用方法」
公益財団法人東日本不動産流通機構│首都圏不動産流通市場の動向(2025年)
総務省統計局│住民基本台帳人口移動報告 2025年結果
全宅連│リアルパートナー 2026年3月号
住所等変更登記の義務化は、2026年4月以降、不動産の所有者に対して「住所や氏名・名称が変わったら、登記簿も更新する」という行動を明確に求める制度です。首都圏・東京23区では、流通件数の多さと人口移動の大きさから、売主には売却準備の前倒し、買主には決済確実性の見極めという形で影響が出やすいと考えられます。
一方で、中期的には検索用情報の申出やスマート変更登記の普及により、所有者情報の更新が進み、売買の初期段階で生じる確認負担を減らす方向に制度が上手く作用する可能性があります。
ウィントランスでは、首都圏の不動産市場に関する情報発信に加え、空き家仲介や売買、不動産流通事業などを通じて、不動産の売却・購入を検討している方に向けたサービスを提供しています。制度改正や市場動向を踏まえた情報も公式サイトで紹介していますので、首都圏で不動産売買を検討している方は、情報収集の一つとしてぜひご覧ください。